31文字の中に想いやメッセージが詰まっている短歌。
この記事では、現代の歌人・俵万智さんが自身の妊娠・育児について詠んだ歌集『プーさんの鼻』をご紹介します。
短歌の表現力に改めて注目が集まっている
元々の短歌は「五・七・五・七・七」のリズムで詠まれる歌です。
万葉集や古今和歌集など、西暦700年代にはすでにその形式があったと言われています。
最近でもTwitterの文字制限が140文字に対して、単価は31文字と圧倒的に短い中でしっかりと伝わる文章を書けるということで、改めて注目を集めています。
同じように「五・七・五」のリズムで詠まれる歌に俳句があります。
全国を旅した俳人・松尾芭蕉作の歌が有名ですね。
俳句では、季節を表す季語を入れて詠みます。
一方、短歌では季語を入れて詠む必要はないとされているので、テーマ設定の幅は広くなる特徴があります。
ちなみに宮内庁でお正月に行われる歌会始では、毎年テーマが決められていて、令和4年のお正月は「窓」がテーマになっています。
歌人・俵万智さんの歌集
この記事でご紹介する歌集・プーさんの鼻の作者は歌人の俵万智さん。
代表作とも言えるサラダ記念日は、国語や現代文の教科書にも取り上げられていて一度は耳にしたことあるという人も多いのではないでしょうか。
プーさんの鼻は、俵さんの4作目の歌集で、ご自身のお子さんの出産前後に詠まれた歌が数多く収録されています。
俵さん自身があとがきの中で次のように綴っています。
八年半ぶりとなるこの歌集には、子どもの歌が圧倒的に多い。ちょっとどうかと思うほど、たくさん作ってしまった。同じ素材、同じテーマで、こんなに作ったのは初めてのことだ。いや、同じ素材でありつづけないから、作らされてしまう、と言ったほうが正確かもしれない。
詠み進めていくと、妊娠から出産、子育て期まで、歌を通して子どもの成長が伝わってくる、そんな作品が詰まっています。
妊娠期から子育てまで、珠玉の短歌が並ぶ
収録されている短歌には、妊娠期や子育て中の思いが詠まれた歌が並びます。
例えば、この歌。
すでにおまえは一つのいのち日曜の朝の六時に動きはじめる
胎動を感じ始めたころでしょうか。
赤ちゃんの胎動は、昼夜問わず動いていると言いますよね。
読みやすく覚えやすくて感じよく平凡すぎず非凡すぎぬ名
命名に悩んだことのあるパパママにとって、悩んだポイントがすべて収められている歌ですね。
漢字の読み違いもなくて、お友達からも親しんで呼んでもらえる名前。
命名に関する本で漢字を探すと、画数から選んだりできる本もありますよね。
ちなみに今年の人気のお名前1位が発表されて、男の子が「蓮(れん)」で4年連続、女の子は6年連続の「陽葵(ひまり)」と初1位の「紬(つむぎ)」。
画数や姓名判断で、名字と合う名前なら候補に入れるのも良きですね。
ちょっと話が逸れましたが、次は産まれた後の歌。
記憶には残らぬ今日を生きている子にふくませる一匙の粥
初めて目が合った日、声を出して笑った日、お食い初めや毎日のご飯。
赤ちゃんと過ごしていると、将来きっと覚えていないだろうなぁということはたくさんあります。
でも赤ちゃんは、今日を生きている、そんな日々を大切にしたくなる歌ですね。
解説は歌人・穂村弘さん
『プーさんの鼻』文庫版の解説を手掛けたのは、同じく歌人の穂村弘さん。
このブログでも、食エッセイ『君がいない夜のごはん』をご紹介したことがありました。
実はこの2人、同時期に歌壇に登場しています。
角川短歌賞という短歌界の新人賞の選考で、「八月の朝」で俵さんが賞を受賞した年に、次席として選ばれたのが「シンジケート」の穂村さん。
こうして解説を手掛けたのも、そのようなご縁からなのでしょうか。
歌人ならではの解説だと感じるのは、俵さんの言葉の選び方に注目して解説しているポイント。
あなた、おまえ、君。相手を表す言葉一つで短歌の印象が大きく変わる、そんな指摘に言葉の強さを感じます。
最新の歌集「未来のサイズ」も登場
プーさんの鼻は2005年に出版された歌集です。
現在の最新刊は2020年に出版された6作目となる詩集『未来のサイズ』。
コロナ禍の感染拡大が鮮明となった時期に詠まれた短歌を始め、3部構成で418首の短歌が収録されています。
こちらもぜひ。
まとめ:31文字に詰められた言葉の力を読もう
この記事では、歌人・俵万智さんの歌集『プーさんの鼻』をご紹介しました。
短い歌に凝縮されている言葉の力を体感できる、そんな1冊です。
もうすぐ、年末。年賀状に添える一言にも、言葉の力を込めて贈りたいものですね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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