以前の記事でご紹介した、いわたま選書さんの本の紹介シリーズ。
最後の1冊としてご紹介するのは、福岡に実在する特別養護老人ホーム「宅老所よりあい」の発足から施設の建設までを追ったエッセイ、「へろへろ」です。
ノンフィクションのようにシリアスに描かれてはいません。
大変と言われる介護の世界を、当事者たちが笑いと知恵で乗り越えていく姿を描いた1冊です。
特別養護老人ホーム開設を描いた実録エッセイ
このエッセイの舞台は、福岡の特別養護老人ホーム、宅老所よりあい。
元々は福岡市内の伝照寺のお茶室を借りて、1991年に始めたデイサービス。
「一人の困ったお年寄りから始まる。一人の困ったお年寄りから始める。」という基本姿勢から、目の前のお年寄りをなんとかするために、奮闘する人々が描かれた1冊です。
最期まで自分らしく過ごせる、新しい介護施設を作った人々の痛快な軌跡をたどることができますよ。
「いたらんことをせん」がテーマ
福岡には「いたらんことをせん」という言葉があります。
「余計なことは一切しない」の意味です。
特別養護老人ホームによっては、運動やリハビリ、作業のプログラムが組まれていることもあります。
こうしたことは一切しないことが、強制されずに過ごすことにつながる、という考え方です。
一日のプログラムと呼べるものは一切なく、桜が咲いたと聞けば突然花見に出かけ、暑くてたまらないとなれば博物館のロビーに涼みに行き、お茶が飲みたくなったら喫茶店に押しかけて、みんなでわいわいやっていた。
「よりあい」の土地購入に1億2千万円集める
2011年、それまで使っていた施設が耐火設備の不適合によって使えなくなり、「よりあい」は特別養護老人ホーム建設に本腰を入れて動きはじめます。
福岡市内にある森、購入する前から「よりあいの森」と呼ぶほど気に入っていた森は、土地の購入に1億2千万円が必要でした。
このお金を2人の人物が中心となって3か月で集めてしまいます。
もちろん、それだけのお金が寄せられた理由の一つには、-まあ、こんなことを書くのは手前味噌にもほどがあると思うのだが―「宅老所よりあい」のような施設が、この世からなくなってほしくないという、人々の思いのようなものもあったのだろう
誰にでもいつか訪れる老い。
最期まで自分らしく過ごせる居場所が欲しいという思いは、どんなに時代が変わっても尽きないことかもしれません。
建設費用はカフェ経営、自家製ジャム、祭り、チャリティイベントで調達
土地を購入したら、いよいよ老人ホームの建設です。
建設費用も「よりあい」の世話人たちが地道に調達していきます。
購入した土地にある古民家を改装してカフェを開き、収益を集めるという方法。
世話人たちが自家製ジャムを売る、祭りでバザーを開く、そしてチャリティイベントを開いて寄付を集める。
およそ思いつく方法はどれも実施して、建設費用を集めていく日々。
作者の鹿子さんのコミカルな表現で、どんどん読み進めることができますよ。
住民説明会の章は必見
こうしていよいよ建設に進む、特別養護老人ホーム「よりあい」。
特別養護老人ホームの建設には、近隣住民向けの説明会が義務付けられています。
「へろへろ」の中ではよりあいの中心人物の1人、村瀬さんが住民に向けて淡々と、しかし熱を帯びた説明で、介護の在り方について問いかけるシーンが刻銘に、10ページにわたって書かれています。
これがこの国の抱える高齢化社会の現実です。
こうなることがわかっていたのに、なにも手を打ってこなかったんです。
何事も経済優先で進めてしまった、その結果です。
そのツケを今から僕らは払っていくことになるというわけです。
住民説明会の場で建設反対の意見が出る場合もある中で、村瀬さんの言葉が住民へと浸透していく。
目に浮かぶような、静かながら力強い言葉、そして会場の雰囲気。
介護の世界の現実を、ありのままに伝える言葉は、いつか介護にかかわるであろう私たちにも訴えかけるものがあります。
まとめ:読めば元気になる痛快エッセイ
この記事では、「宅老所よりあい」の建設までを描いた痛快エッセイ「へろへろ」をご紹介しました。
あらゆる困難を乗り越えて目的を果たしていく痛快さが、何か息詰まることがあった時に元気をくれる、そんな1冊です。
いつか来る老いと、楽しく読みながら向き合うことができると思いますよ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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